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#10 別れ

last update Last Updated: 2025-04-04 09:08:22

 お母さんが……死んだ。私を産んでから衰弱しきっていたからいつかこういう日がくることは分かっていた。生まれる前からこの日が来るのを知っていた。分かっていたはずだった。でも、覚悟が足りていなかった……。

 わかっていたはずのその別れ。赤子が背負うにはあまりにも重いその事実を私は受け入れることが出来ずにいた。母親の温もりを知り、愛を知ったばかりだった。その点においては前世の記憶がある私といえど普通の赤子と何ら変わらなかったのだ。

 それでも私の中の冷静な部分が今後について考え始めていた。お母さんという私と父親を繋ぎ止めていたものがなくなってしまった以上、父親に頼ることはできならないからだ。もう自分で何とかするしかない。私は改めて覚悟を決めた。

 この時のために私は計画を立てていろいろ準備をしていたのだけど……

 その全てが水の泡となってしまったみたいだ。チッ。

 こう言うとあたかも上手くいかなかったかのように聞こえてしまうがそうではない。父親……いや良治が最低限私を死なせないように実家に預けたのだ。上手くいってはいるんだけど、うん。こうも私に関係ないところで上手くいきすぎるとこう……もやるというか。上手くいきすぎると不安になるってのもある。こうして、私は何もしないまま祖父母の元で生活することが決まったのだった。

 こんな身体になってしまったし、なにかと祖父母には迷惑をかけることにはなるとは思う。でも負担はできるだけ減らしたい。できるだけ大人しくして……。あ、私赤さんだから何も出来ないんだったわ……。大人しくお世話されるしかないのかぁ。今の私に出来るのは笑顔を振りまくことと、夜ぐっすり寝ることだけだ。夜ぐっすり寝るのは意外と大切だったりする。夜にコッソリ抜け出して自分で粉ミルクを作って飲む。時々、いや見栄張った。よく粉をこぼしちゃうけど、それはご愛嬌。

 夜泣きはきつい。あれがあると全然休めないのだ。前世じゃ娘どころか旦那もいなかったけどね。そんな私にも姪っ子を預かる経験くらいあるからわかる……つもりだ。まぁその程度で母親の気持ちとか苦労を知ってるなんて言えないけどね。その夜泣きがないだけましだと思ってもらうしかない。所詮私は何も出来ない赤さん。変に何かしようとするとその分だけ邪魔になるし、負担になってしまうだろう。だから私は大人しくミルクをもらい、オムツを交換され、寝
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  • 憧れに手を伸ばせ   #43 帰宅!

    「おじいちゃん、おばあちゃん!たっだいまー!」 こうして二人の顔を見るとすごく安心する。ゆかりちゃんのお家で二人でお話するのは楽しかったし、ゆかりちゃんともっと一緒にいたいと思えた。でもやっぱり私の帰るべきお家はここなんだなって思う。「由良ちゃん、今日はありがとね!敏夫さん、雪花さん。今回私を信用して大事なお孫さんを預けてくださりありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」『由良は突拍子のないことを言い出す子だ。ゆかりさん、この子のことよろしく頼む。』 突拍子のないこと?しないし!アドリブでボイスドラマとかの無茶ぶりはしたけども!そういう配信割とあるじゃん! 『由良が無茶言うかもしれないですが、何卒よろしくお願いします。あ、そうだ!ゆかりさん、良ければうちでご飯食べていきませんか?食事は賑やかな方が美味しいですから!』 私は誰がなんと言おうとしっかり者ないい子なのです。あれ?前の私こんな思考してたっけ。最近はなんか前よりいっそう精神年齢が身体に引っ張られている気がするな。気を付けないと……。「いえ、さすがに今朝初めて会ったばかりで申し訳ないですし……。」 おばあちゃんから言い出したんだから遠慮なんてしなくていいのに〜!「ゆかりちゃん!一緒にご飯食べよ?」「ご、ご馳走になります。」『それじゃ、チャチャッとお夕飯仕上げちゃうわね!』 おばあちゃんの料理は絶品だから楽しみに待つといいよ、ゆかりちゃん!とりあえずドヤ顔してよ。どやぁ!と、その前にやることやること!「それじゃゆかりちゃん、"今日は私のお家で一緒に夕飯も食べました。"ってYで呟こっか!百合営業チャンスだよ!ゆかりちゃん!」「うん……なんというか由良ちゃんはブレないね。」「チャンスは一つ残らず掴み取らなきゃ!ゆかりちゃんは私の初めてにして一番の友達だからね。誰にもこの立場を譲るつもりはないからね!しっかりアピールしてかないと!そ・れ・に!私たちの仲、みんなに自慢しちゃお?ニシシッ!」「そうだね、由良ちゃん。みんなが嫉妬しちゃうくらいのイチャイチャを見せつけちゃおっか!」 楽しいなぁ〜VTuberは。

  • 憧れに手を伸ばせ   #42 私の大好きなもの

    「あ、そうだ。この調子でカップルチャンネルでも作る?」 やっぱりリスナーは百合百合しいのを求めていると思うわけですよ。だからやろう!カップルチャンネル!きっとスパチャじゃんじゃん飛ぶよ!まだスパチャ投げれんけど!「えーっと……馬鹿なのかな?」 バカとはなんだね。「百合営業というやつだよ?知らないの?」 VTuberの売り出し方としてはベタじゃんか。ユニットを組むのもよくあることなのに……。「知ってるけども……。」「活動資金が今のところ祖父母頼りだから申し訳わけなくてさ。お願い!私と一緒にガッポガッポしよ!」――せめて俺らのいないところで話してくれよ――そういやYURAちゃん収益化できてないのか――ガッポガッポって……――んなどストレートな……――収益化まだできなさそうなの?「収益化ねぇ〜もう少しではある。条件的にはもう少しではあるんだけど……歴が短いから審査どうなるかわからんのよ。だから再生回してね!」「百合営業はいいんだけどカップルチャンネルは却下で。それとは別でまたうちで撮影しようね。」「いいじゃーんユニット組もうよ〜!あれ?締めに入ってない?」「ほら、YURAちゃんのこと送らなきゃいけないし。」 あ、言われてみれば確かに結構な時間が経って日もずいぶん低くなっている。「あ……というわけで誠に残念ながら終わりの時間が来てしまったのでせーのっ!おつゆらりん!」「お、おつゆらりん!え?何その挨拶!」「今ノリで考えた!」 にしても今即興で考えたにしてはなかなか悪くないんじゃないか?やはり私は天才だね。ただ急にやったからかあかねママが私の挨拶につられちゃってる。まぁいいや。「え!え!?」 ふんふふ〜ん!今日はめちゃくちゃ楽しかった。次ここに来るときはどんなことができるかな。次はレースゲームとかしたいなぁ〜。あ、お泊まりもいいかもしれない。VTuberになって良かった。私の憧れた人たちの存在は遠いし、私なんてまだまだひよっこだろう。追いつくためにやらなきゃいけないことも山ほどある。 それでも、私の大好きなVTuberという職業はキラキラ輝いていた。

  • 憧れに手を伸ばせ   #41  マイクが逝った

    「今度こそ最後までいく。3・2・1……ふーん?お姉ちゃんはお兄さんのこと好きじゃないんだ〜?ふーん?なら、私はお兄さんのこと好きだから貰っちゃうね?」「えっと……その……私の方が……きだもん。」「あれれ〜?聞こえないな〜?」「私の方が……大好きだもん!」「そっかお姉ちゃんが私の恋敵かぁ〜。こうなったお姉ちゃんが頑固なのは知ってるしどうしようかなぁ。私も引くつもりはないし……あ、そうだ!」「ッ〜/////」「それにしても可愛いなうちの姉。せっかく勇気出して告白までしたんだからね。私たちの想いを無下になんてしないよね?お兄さんに選んでもらおっか。私と……」「私……」「「どっちのことが好きなの?」」「と、いうわけで終了です!行き当たりばったりな私たちのボイスドラマはいかがだったでしょうか!私たちも行き当たりばったりっていうのと初めてだったいうのとで拙い部分がありつつもそこそこな物が出来たんじゃないかと思っておr……」「ああああああああぁぁぁ!!」 ちょ、あかねママ!?「――――――――!?」――あれ?急にミュートなった?――YURAちゃんの口が動いてるからなんか言ってるのはわかるんだけど声が聞こえない――鼓膜逝ったか?――あかねちゃんの叫び声でマイク逝った可能性もあるな――とりあえず替えの鼓膜取ってこないとな これはワンチャンマイク逝ったな。まぁ、あかねママのマイクがあかねママの叫び声で逝ったし私は知らん。でもまぁ……この私の企画も無関係じゃないし、マイク探しがてら一緒にお出かけしないか誘ってみようかな。と、その前にコンデンサーマイクに繋ぎ直しちゃわないと。「おーい!聞こえてる〜?」――お、直った直った!――これはマイクの方が逝って感じかな?――マイクが通常配信用のに戻したら音が復旧したっぽいしたぶんそうだね――え〜マジか、俺の鼓膜替え損じゃん――まぁ何はともあれ配信には支障無さそうでよかった「マイクは壊れちゃいましたけど、まぁ新しいの買えばいいですしね。」「金持ちが……。」

  • 憧れに手を伸ばせ   #40.5 七夕

    「諸君、今日は七夕だぞ!願い事は短冊に書いたかね。」――書いてるわけwww――俺らがそういう年間行事に参加してると本気で思ってるん?――七夕ゼリー美味しかったー!――学校で書かされたから当たり障りないこと書いた――え?この中に学生が?しかもピュアな子が……――今年の七夕ゼリー凍ってたんだけど……――いやいやいや、まだおっさんが擬態してる可能性が……――先月返ってきた全統模試ボロボロだったから次こそは良い点取れるようにって書いた――ガチだ……「やっぱり私は世代問わず愛されるスーパーVTuberな私はチョベリg…最高だぜ!それにしても七夕ゼリーか〜懐かしいね。うちの学校めっちゃシャリシャリだったな〜。ゼリーに求めてる食感それじゃねぇよって出る度に思ってたよ。」――自惚れ乙――チョベリグとか今どき誰が使うん――やっぱりお前年齢詐称やろ――一応前世持ちって設定あるから……――ゼリーにシャリシャリを求めてないのはそう――必死に体温でゼリー溶かしてたなぁ〜懐かしい――俺冷てぇ冷てぇ言いながら溶かしてたわ「私は幼女です!自称幼女じゃないです!年齢詐称して幼女名乗ってるおばさんじゃないです!なんちゃって幼女じゃない本物です!」――なんかこれ各方面刺してね?――それな――年齢詐称、VTuberは結構してるからね――今どきバカ正直に実年齢でやってるVTuberがどれだけいるのか……――おいコラやめろ――年齢可変式とか言いながら酒飲んでる自称18歳いるしね――やめてさしあげろ!――そういえばYURAちゃんは何お願いしたの?「よーくぞ聞いてくれました!」――あぁ〜失敗した――すぐ調子乗るんだから――聞いて欲しそうにしてるのはみんなわかった上でスルーしてたのにさ〜空気読めよな〜――ガチ草「ひっでぇ!で、私の夢だっけ?2次元、3次元の垣根を越えて活躍することだよ!俳優業とかモデル業もしてみたいんだよね私。せっかく個人勢で好き勝手できるんだから顔出ししてリアルでも活動したいじゃん?」――VTuberが声優とかするのは見かけるけど俳優かぁ――やめろー現実を見せるなー!――モデルかぁ……雑誌に載ったら買いに行かなきゃか。ファッション雑誌買いに外出たくないなぁ――女性ものファッション雑誌買ってる中年おっさんとか俺見苦しくない?大

  • 憧れに手を伸ばせ   #40 照れまくる

    「お、帰ってきたっぽいから私出てくるね。あ、お兄さんもお出迎えする?お姉ちゃんとおかえりなさいのキスとかしたい?それなら一応見ないように目は瞑っておくから恥ずかしくて見られたくないなら予め教えてくれるとこっちも配慮できるからね!」「配慮できるからね!じゃないんだよバカ妹!お兄はこんなバカの言うことなんて気にしなくていいからね!なんなら今すぐ忘れてもいいだよ?こう……頭を私の膝でガンってやって忘れさせてあげようか?」「ちょいちょいちょーい!」「YURAちゃんどうしたの?」「恥ずかしいからってすぐネタに走るんじゃーないよぉ!」――急に流れ変わったよね――可愛らしい姉妹喧嘩のはずが急に物騒な話に……――あかねちゃん、今のはちょっと怖いよ――ちょっと照れちゃって〜っていじれるラインを越えてて草――こういうのするのYURAちゃんだと思ってた――それな――まさかあかねちゃんがそのポジに収まるとはね「あんなよくわかんないの挟んだあとじゃいまいちボイスに集中できないだろうけど、そこはもうそういうもんだと諦めてね。じゃあちょい前から続きいくよ!ゴホンッ……お姉ちゃん恥ずかしがってるみたいだから代わりに私がお兄さんの相手してあげるね!どうする?膝枕とかしちゃう?耳かきとかする?」「ふーん?年下の女の子に膝枕とかされちゃうんだ?ふふっ、素直でよろしい!まぁちょっぴり情けない気もするけどね。ほれほれ〜お姉ちゃんはこのままでいいのかなぁー?だーい好きなお兄さんが妹の私に盗られちゃうよ〜?」「べ、別に好きとかじゃないけど……。ちょ、ちょっと待って!一旦休憩!一旦休憩ちょうだい!の、喉が渇いちゃって。」「こんなこと言いたくないんだけどさぁ。あかねママ、今ライブなのよ。恥ずかしいからって止めないでやらなきゃなんだよ?わかる?」――そうだそうだー!――ライブでやってるのにそんなにすぐ止めてちゃ話に集中できないだろー!――素で照れとるやんけwww――YURAちゃんにそんなこと言わせるなー!――俺らは照れてるあかねちゃんを見たいんだー!止めずに照れてるところを見せろー!「素で照れちゃってるあかねママガチ可愛いんだけども。」「や、やめろー!」

  • 憧れに手を伸ばせ   #39.5 祖父の意思

    「ゴホッゴホッゴホッ……ふぅ。歳はとりたくないもんだな。」 誤魔化しながらこれまで過ごしてきた。自分の身体の丈夫さには自信があったし、今由良の前で弱っているところを見せてしまえばあの子の心の傷をえぐることになるかもしれない以上病気の可能性を彼女に示すわけにはいかなかった。「敏夫さん、大丈夫ですか?ここ最近やけに咳が多いですけど……。念の為に病院で検査してもらった方がいいんじゃないですか?私たちも歳ですし。」「なーにただの風邪だ。どうってことはないさ。歳だからかちと治りが遅くなってるだけだよ。少しの間休んでいれば治るから心配せんでいい。」 ただの風邪じゃないのはわかっている。呼吸の度に胸が痛むし、咳もなかなか治らない。俺ももう歳だ。良くて肺炎だろう。最悪の場合……███だろう。「そんなこと言って何か重い病気だったらどうするんですか!。もしなにかの病気ならすぐに治療しないと手遅れになるかもしれない。そしたらあの子を……由良を残して死ぬことになるんですよ!ほんとにそれでいいんですか!?」 もちろんそんなことをするつもりはない。ただ怖いんだ。あの子の成長を見守ることはもうできないと宣告されることが。あの子のことを傷付けることが。「それは……だなぁ。」 無理だった。死ぬもしれない。もしかしたら明日にでも体調が悪くなって倒れるかもしれない。病院に行っても本格的な治療を行えるほどの力は今の俺には残っていない。「見損ないました。あなたが死んだらあの子はまた大切な家族を亡くすことになる。そしたらあの子はまた心に傷を負う。あんなに幼い子に二度も……。」 それなら俺は最期まで……命が燃え尽きるその瞬間まで……「あの子の心の傷が癒えることはないかもしれない。あの子はもう立ち直れないかもしれない。それなのに敏夫さんは!そんな自分のプライドやら変な自信を優先して本当に大事なものを見失った敏夫さんなんてもう知りません。もう好きにしたらいいんじゃないですか?」 あの子の隣にいたい。

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